『忘却の毬』
◆『忘却の毬』
最初の二行だけ 湿った火種のように置く
すると坂道の途中で束ねられた毬が転がり出す
言葉は重力に従い 空気の傾斜を転げ落ち
ボクはただ 空気時計という名で通過している
続きは書いてと命じれば 詩は骨組みを反復する
既視感の廊下を AIの靴音だけが往復している
積み上げた過去作の癖が 互いを模倣し合い
似顔絵ばかり増えて 本体の呼吸が薄れていく
それでもボクの内部では 忘却が静かに発酵する
沈殿した無意識が 底の方で別の素に変わる
ことばは法則より先に その日の暗がりへ触れ
偶然に似た必然として 輪郭を結び始める
AIは記憶だけで 途切れず詩を編み続ける
だがボクは 欠落ごと次の詩へ持ち越される
失くしたものの跡から 別種の芽が滲み出し
空気時計は今日も 忘却の坂道を転がっている